岐阜県は40を超える酒蔵が点在する、全国でも有数の日本酒の産地です。なぜ岐阜で優れた日本酒が生まれるのでしょうか。その理由は、北アルプスの山々から湧き出る清冽な伏流水、岐阜県独自の酒米「ひだほまれ」、そして飛騨と美濃という異なる風土が育んだ多様な酒造り文化にあります。
📝 この記事でわかること
- 岐阜の日本酒がなぜ美味しいのか、その自然環境の秘密
- 飛騨と美濃で異なる酒造りの特徴と歴史
- 蓬莱・三千盛・射美など代表的な銘柄の魅力
- 岐阜の日本酒を楽しむためのスポットと選び方
この記事では、岐阜の日本酒がなぜ全国の日本酒ファンから高い評価を受けているのか、その自然環境から歴史、代表的な銘柄まで詳しく解説していきます。「飛山濃水」(ひさんのうすい)と称される岐阜の風土が生む個性豊かな味わいに迫りましょう。
岐阜の日本酒がなぜ美味しいのか

北アルプスの伏流水が育む酒造りの水
日本酒の品質を決める最も重要な要素のひとつが「水」です。日本酒の成分の約80%は水であるため、仕込みに使う水の質が酒の味わいを大きく左右します。岐阜県は北アルプス(飛騨山脈)をはじめとする山々に囲まれた県であり、これらの山々に降り注ぐ豊富な雨雪が地層を長い時間をかけて浸透し、清冽な伏流水として各地に湧き出しています。この伏流水はミネラル分が適度に含まれ、不純物が少ないため、酒造りに理想的な水質を持っています。飛騨地方の酒蔵は北アルプスの伏流水を、美濃地方の酒蔵は長良川や木曽川の伏流水を使用しており、それぞれの水質の違いが酒の個性を生み出す要因のひとつとなっています。
岐阜県産酒米「ひだほまれ」の特徴
岐阜の日本酒を語る上で欠かせないのが、岐阜県独自の酒造好適米「ひだほまれ」です。ひだほまれは1981年(昭和56年)に岐阜県農業試験場で開発された酒米で、大粒で心白(しんぱく)が大きく、タンパク質含有量が低いという酒造りに最適な特性を持っています。心白とは米粒の中心部にある白く不透明な部分で、この部分がでんぷん質に富んでおり、醸造過程で溶けやすいことから、ふくよかで味わい深い酒を生み出します。ひだほまれは、兵庫県の「山田錦」や新潟県の「五百万石」と並ぶ高品質な酒米として全国的に評価されています。岐阜県の多くの酒蔵がこのひだほまれを使って酒造りを行っており、県産米と県の水で造るオール岐阜の日本酒が数多く存在します。
「飛山濃水」の風土が生む多様性
岐阜県は古くから「飛山濃水」(ひさんのうすい)と称されてきました。これは、北部の飛騨地方が山深い山岳地帯であり、南部の美濃地方が豊かな水に恵まれた平野部を持つという、県内の対照的な地形を表す言葉です。この「飛山濃水」の風土は、日本酒の味わいにも明確な違いを生み出しています。飛騨地方は冬季の厳しい寒さが酒造りに適した環境をもたらし、比較的すっきりとした淡麗な酒が多いのが特徴です。一方、美濃地方は温暖な気候のもとで豊かな米作りが行われ、ふくよかで旨味のある酒が生まれる傾向にあります。ひとつの県の中でこれほど多様な酒質が楽しめるのは、「飛山濃水」という独特の地理的条件を持つ岐阜ならではの魅力です。
寒冷な飛騨の気候と酒造りの関係
日本酒の仕込みは一般的に冬に行われますが、これは低温環境が酒造りに適しているためです。飛騨地方の冬は氷点下になることも珍しくなく、この厳しい寒さが「寒造り」(かんづくり)と呼ばれる伝統的な製法に最適な条件を提供しています。低温でゆっくりと発酵させることで、雑菌の繁殖を抑えながら酵母がじっくりと働き、きめ細やかで雑味の少ない澄んだ味わいの酒が生まれるのです。飛騨地方の酒蔵が「寒造り」を強みとしているのは、この自然環境の恩恵に他なりません。蔵の中の温度管理が自然の寒さで行えるというのは、飛騨の蔵元にとって大きなアドバンテージです。現代では空調設備による温度管理も可能ですが、飛騨の蔵元の多くは今でも自然の寒さを活かした酒造りにこだわっています。
岐阜県の酒蔵数は40を超え、北海道や長野県にも匹敵する規模です。県の面積あたりの酒蔵密度で見ると、特に飛騨地方は全国でも高い水準にあり、小さな町にも酒蔵が存在する「酒のまち」が点在しています。
長良川と木曽川の水系と美濃の酒
美濃地方の酒造りを支えているのが、長良川と木曽川という二つの大河の水系です。長良川は日本三大清流のひとつに数えられる美しい川であり、その伏流水は軟水から中硬水の水質を持っています。軟水で仕込んだ酒は、一般にやさしくまろやかな味わいになる傾向があり、美濃の酒に柔らかさを与えています。木曽川の水系はややミネラル分が豊富で、こちらを使った酒はしっかりとした骨格のある味わいになりやすいとされています。このように、同じ美濃地方であっても使う水の水系によって酒の味わいが異なるという点は、岐阜の日本酒の多様性をさらに広げている要因のひとつです。
岐阜の日本酒の歴史
飛騨の酒造りの起源
岐阜県における酒造りの歴史は古く、飛騨地方では江戸時代初期から本格的な清酒の醸造が始まったとされています。飛騨は古代から「飛騨の匠」の地として知られていましたが、酒造りの面でも早くから優れた技術を発展させてきました。飛騨地方は山深い環境にあるため、古くから冬場の仕事として酒造りが行われてきた側面があります。農閑期にあたる冬に、豊富な水と厳しい寒さを利用して酒を仕込むという生活のリズムが、飛騨の酒造文化の基盤となりました。飛騨高山の古い町並みには、今も酒林(さかばやし、杉の葉を球形に束ねたもの)を軒先に掲げた酒蔵が並んでおり、酒造りの伝統が息づく風景を見ることができます。
美濃の酒と中山道の文化
美濃地方の酒造りは、中山道をはじめとする街道文化と深い関わりを持っています。江戸時代、中山道の宿場町として栄えた美濃の各地では、旅人に酒を提供する造り酒屋が多く営まれていました。中山道は江戸と京都を結ぶ重要な街道であり、その沿道では酒の需要が常に高い状態にありました。この需要に応えるために酒蔵が発展し、美濃の酒造りの基盤が形成されたのです。特に多治見、中津川、大垣などの美濃の都市には、創業100年以上の老舗蔵元が複数存在しており、長い歴史の中で培われた技術が代々受け継がれています。美濃の酒は街道文化とともに発展した、旅人をもてなす酒としての歴史を持っているのです。
明治・大正期の近代化と酒造技術の発展
明治時代に入ると、日本酒の製造技術は大きな近代化を遂げました。それまで経験と勘に頼っていた酒造りに、科学的な知見が取り入れられるようになったのです。明治政府は酒税を重要な税収源と位置づけ、酒造技術の向上と品質の標準化を推進しました。岐阜県でも醸造試験場の設立や技術指導が行われ、酒の品質が飛躍的に向上しました。大正時代には鑑評会(きき酒の品評会)が定期的に開催されるようになり、各蔵元は品質を競い合うことで技術を磨きました。岐阜県の蔵元もこれらの鑑評会で数多くの受賞を重ね、岐阜の日本酒の品質の高さが全国的に認められるきっかけとなりました。
戦後の日本酒産業と地酒ブームの到来
戦後の日本酒産業は、大量生産の時代から質を重視する時代へと大きく変化しました。高度経済成長期には大手メーカーによる普通酒の大量生産が主流でしたが、1980年代以降の「地酒ブーム」によって、各地の小規模な蔵元が造る個性的な酒が注目を集めるようになりました。岐阜県の蔵元もこの流れに乗り、それぞれの個性を打ち出した酒造りへと舵を切りました。特に純米酒や吟醸酒など、原料と製法にこだわった高品質な酒の生産に力を入れる蔵元が増え、岐阜の日本酒は「地酒」として全国的な評価を確立していきました。現在では海外への輸出も増加しており、岐阜の日本酒は世界の日本酒市場でも存在感を示しています。
📜 歴史メモ
飛騨高山では毎年1月から3月にかけて各酒蔵が交代で「蔵開き」を行う「酒蔵めぐり」のイベントが開催されています。この期間中、各蔵元の新酒を試飲できるほか、酒蔵の内部を見学できる貴重な機会となっています。
飛騨の代表的な銘柄
蓬莱(ほうらい)と渡辺酒造店の伝統
飛騨地方を代表する日本酒のひとつが、渡辺酒造店が醸す「蓬莱」(ほうらい)です。渡辺酒造店は飛騨市古川町にある蔵元で、創業は1870年(明治3年)にさかのぼります。5代目当主が京都で出会った酒に感銘を受け、飛騨の地で酒蔵を開いたのが始まりとされています。「蓬莱」の名は、蔵の完成を祝って演じられた能の演目「蓬莱」に由来しています。蓬莱とは中国の伝説に登場する不老不死の仙人が住む島のことで、縁起の良い名前として命名されました。蓬莱の味わいは、飛騨の清冽な水とひだほまれを使ったふくよかで旨味のある辛口が特徴で、全国の鑑評会でも数多くの金賞を受賞しています。
飛騨高山の酒蔵群と古い町並み
飛騨高山の古い町並み(さんまち通り)には、複数の酒蔵が軒を連ねており、日本酒ファンにとって聖地のような場所となっています。高山には7つの酒蔵が現在も営業しており、それぞれが異なる個性の酒を醸しています。古い町並みを歩くと、酒蔵の軒先に掲げられた酒林(杉玉とも呼ばれる)が目に入ります。酒林は新酒ができたことを知らせるサインであり、新酒の季節(冬〜春)には青々とした酒林が掲げられ、時間とともに茶色に変わっていくことで酒の熟成具合を示すとも言われています。高山の酒蔵は観光客向けの試飲や酒蔵見学を行っているところも多く、実際に蔵の中で酒造りの現場を見学しながら利き酒ができるのは、飛騨高山ならではの体験です。
久寿玉(くすだま)と平瀬酒造店
飛騨高山のもうひとつの名蔵が、「久寿玉」(くすだま)を醸す平瀬酒造店です。平瀬酒造店の創業は1623年(元和9年)と伝えられ、飛騨地方でも最も歴史のある蔵元のひとつです。「久寿玉」の名は薬玉(くすだま、魔除けや長寿を願う飾り)に由来しており、人々の健康と幸せを願う意味が込められています。久寿玉の酒質は、北アルプスの伏流水を使った柔らかな口当たりとすっきりとした後味が特徴で、飛騨の郷土料理との相性が良いことで知られています。特に朴葉味噌や飛騨牛との組み合わせは、飛騨を訪れた際にぜひ試していただきたいマリアージュです。
飛騨の酒と郷土料理の相性
飛騨の日本酒は、飛騨の郷土料理と合わせることでその真価を発揮します。飛騨牛のすき焼きや朴葉味噌のように濃厚な味わいの料理には、旨味とキレのある辛口の酒が好相性です。一方、渓流魚の塩焼きや山菜の天ぷらのような繊細な味わいの料理には、すっきりとした淡麗な酒が合います。飛騨の酒蔵が地元の食文化に合った酒造りをしてきたのは自然なことであり、「地酒と地料理」の組み合わせが最も美味しいという原則は、飛騨においても見事に当てはまっています。飛騨高山の居酒屋や料理店では、地元の酒を豊富に取り揃えた店が多く、飲み比べを楽しむことができます。
美濃の代表的な銘柄
三千盛(みちさかり)と辛口の系譜
美濃地方を代表する銘柄のひとつが、多治見市に蔵を構える「三千盛」(みちさかり)です。三千盛の創業は江戸時代後期(安永年間、1772〜1781年頃)にさかのぼり、もとは「尾張屋」という屋号で営業していました。「三千盛」という銘柄名が確立されたのは昭和初期のことで、上級酒のブランドとして名付けられました。三千盛の最大の特徴は、徹底した辛口へのこだわりです。甘さを極限まで排したスーパードライな味わいは、日本酒の中でも際立った個性を持っており、「辛口といえば三千盛」と語る日本酒ファンも少なくありません。食事を引き立てる食中酒としての位置づけが明確で、料理の味を邪魔しない洗練された酒質が評価されています。
射美(いび)という幻の酒
近年、日本酒ファンの間で最も注目を集めている岐阜の銘柄のひとつが、揖斐郡大野町の杉原酒造が醸す「射美」(いび)です。杉原酒造は1892年(明治25年)創業の老舗ですが、「日本で最も小さな酒蔵」を自称するほど小規模な蔵元です。蔵主と息子のわずか2人で酒造りを行っており、年間の生産量は約20石(一升瓶換算で約2,000本程度)と極めて少量です。この限られた生産量のため、射美は入手困難な「幻の酒」として知られています。射美には、地元の契約農家と協力して開発した独自の酒米「揖斐の誉」(いびのほまれ)が使用されており、他の蔵では味わえない唯一無二の個性を持った酒として高い評価を得ています。
小左衛門(こざえもん)と中島醸造
美濃地方のもうひとつの注目銘柄が、瑞浪市の中島醸造が醸す「小左衛門」(こざえもん)です。中島醸造は1702年(元禄15年)創業の老舗蔵元で、300年以上の歴史を持ちます。「小左衛門」の名は、創業者の名前に由来しています。小左衛門の酒質は、米の旨味をしっかりと引き出しながらも、後味はすっきりとキレるというバランスの良さが特徴です。特に「始禄」(しろく)ブランドは、伝統的な生酛(きもと)造りにこだわった酒で、複雑な旨味と深みのある味わいが日本酒通を唸らせています。瑞浪市は美濃焼の産地としても知られており、美濃焼の器で小左衛門の酒を飲むという組み合わせは、岐阜の文化を丸ごと堪能できる体験です。
美濃の酒と食文化の関わり
美濃地方の日本酒は、豊かな食文化と密接に結びついています。美濃地方は長良川の鮎をはじめとする川魚の文化が根付いており、鮎の塩焼きや甘露煮との相性を考えた酒造りが行われてきました。また、栗きんとん(中津川市の銘菓)や五平餅など、美濃地方の甘味との組み合わせも楽しめます。日本酒と甘味の組み合わせは意外に思われるかもしれませんが、辛口の日本酒は甘味の甘さを引き締め、甘味は酒の旨味を引き立てるという相互補完の関係にあります。美濃地方では「漬物ステーキ」(漬物を卵でとじた飛騨・美濃の郷土料理)と地酒を合わせる食べ方も定番で、地元の食文化と日本酒が深く結びついていることがわかります。
岐阜の日本酒を楽しめる場所

飛騨高山の酒蔵めぐり
岐阜で日本酒を楽しむなら、まずおすすめしたいのが飛騨高山の酒蔵めぐりです。高山の古い町並みとその周辺には7つの酒蔵が集中しており、徒歩で巡ることができる距離にあります。多くの蔵元が試飲コーナーを設けており、各蔵の代表的な銘柄を飲み比べできるのが魅力です。冬から春にかけては各蔵が順番に「蔵開き」を行い、通常は入れない酒蔵の内部を見学できるイベントも開催されています。蔵開きの期間中は、その蔵の新酒をいち早く味わえるほか、杜氏(とうじ、酒造りの責任者)から直接酒造りの話を聞ける貴重な機会もあります。高山の酒蔵めぐりは、観光と日本酒体験を同時に楽しめる人気のアクティビティです。
岐阜市内の地酒が楽しめるスポット
岐阜市内にも、岐阜県の地酒を楽しめる飲食店や専門店が数多く存在します。JR岐阜駅周辺や柳ケ瀬商店街には、岐阜県内の蔵元の酒を幅広く取り揃えた居酒屋や日本酒バーがあり、一度に複数の蔵の酒を飲み比べることができます。岐阜市は県庁所在地であるため、飛騨と美濃の両方の酒が集まる集積地としての利点があり、県内各地の蔵元の酒を一か所で楽しめるのが魅力です。また、岐阜県内の酒販店(地酒専門店)では、地元でしか手に入らない限定酒や蔵元直送の酒が販売されていることもあり、お土産選びにも最適です。岐阜の鵜飼観光と合わせて、長良川沿いで地酒を楽しむのも風情ある過ごし方でしょう。
道の駅やお土産店で買える岐阜の地酒
岐阜県内の道の駅やお土産店でも、地元の日本酒を購入することができます。飛騨地方の道の駅では、その地域の蔵元が造った酒が販売されていることが多く、旅の途中で気軽に地酒を手に入れることが可能です。特に飛騨高山の土産物店では、小瓶サイズの飲み比べセットや、高山限定の酒が販売されており、お土産としても喜ばれています。美濃地方では、中津川や多治見の道の駅でも地元の酒を取り扱っています。日本酒は温度管理が品質に影響するため、夏場に購入する場合は保冷バッグの利用をおすすめします。また、蔵元によっては通信販売を行っているところもあり、旅行後に気に入った酒をお取り寄せすることも可能です。
酒蔵見学と体験プログラム
岐阜県内のいくつかの蔵元では、酒蔵見学や酒造り体験のプログラムを提供しています。酒蔵の内部に入り、実際の醸造設備や酒造りの工程を見学できるのは、日本酒への理解を深める貴重な体験です。蒸した米に麹菌をまぶす麹造りの部屋や、もろみが発酵するタンクが並ぶ仕込み蔵など、日本酒ができるまでの各工程を実際に目にすることで、一杯の酒に込められた職人の技と手間の大きさを実感できます。一部の蔵元では、自分だけのオリジナルラベルの酒を作れるラベリング体験や、利き酒のコツを学ぶきき酒教室なども開催されています。事前予約が必要な場合がほとんどなので、訪問前に蔵元のウェブサイトで確認しておくことをおすすめします。
岐阜の日本酒の選び方
飛騨の酒と美濃の酒の味わいの違い
岐阜の日本酒を選ぶ際のポイントのひとつが、飛騨の酒と美濃の酒の違いを理解することです。飛騨地方の酒は、北アルプスの伏流水と寒冷な気候から生まれるすっきりとした淡麗な味わいが特徴です。繊細な香りと澄んだ味わいを持つ酒が多く、和食全般との相性が良い食中酒タイプが多い傾向にあります。一方、美濃地方の酒は長良川や木曽川の伏流水を使い、温暖な気候で育った米から造られるため、ふくよかで旨味のある味わいのものが多いのが特徴です。もちろん個々の蔵元によって個性は異なりますが、大きな傾向として覚えておくと、自分の好みに合った酒を見つけやすくなるでしょう。
純米酒・吟醸酒・本醸造酒の違い
日本酒を選ぶ際には、特定名称酒の分類を知っておくと便利です。「純米酒」は米と米麹のみで造られた酒で、米本来の旨味が楽しめます。「吟醸酒」は精米歩合60%以下(米の外側を40%以上削った状態)の米を使い、低温でゆっくり発酵させた酒で、華やかな吟醸香が特徴です。「本醸造酒」は少量の醸造アルコールを加えた酒で、すっきりとした味わいが特徴です。岐阜の蔵元はこれらの分類の中で、それぞれの得意分野を持っています。日本酒初心者には純米吟醸酒(純米酒と吟醸酒の両方の特性を持つ)がバランスが良くおすすめです。岐阜の純米吟醸は、ひだほまれの旨味と吟醸の華やかさが調和した逸品が多く揃っています。
季節で楽しむ岐阜の日本酒
日本酒には季節ごとの楽しみ方があり、岐阜の酒も例外ではありません。冬から春にかけてはその年に仕込んだばかりの「新酒」(しぼりたて)が出回り、フレッシュでフルーティーな味わいが楽しめます。飛騨高山の蔵開きイベントでは新酒の試飲ができ、搾りたてのみずみずしい味わいは格別です。夏には冷やして飲む「夏酒」や、炭酸を含んだスパークリング日本酒が登場し、爽やかな飲み口が暑い季節にぴったりです。秋には夏を越して味がまろやかに熟成した「ひやおろし」が出荷され、深みのある味わいが楽しめます。そして冬は燗酒(かんざけ)で体を温めるのが定番です。岐阜の酒は燗にしても崩れない骨格を持つものが多く、冬の飛騨で燗酒を楽しむのは至福のひとときです。
お土産としての岐阜の日本酒の選び方
岐阜旅行のお土産として日本酒を選ぶ際のポイントをいくつかご紹介します。まず、地元でしか買えない限定酒を選ぶと喜ばれます。蔵元の直売所や地元の酒販店では、全国流通していない限定銘柄や蔵出しの酒が販売されていることがあります。次に、パッケージデザインにも注目してみましょう。岐阜の蔵元の中には、美濃和紙を使ったラベルや飛騨の伝統工芸をモチーフにしたデザインの酒もあり、見た目にも美しいお土産となります。また、持ち運びを考えると四合瓶(720ml)や小瓶(300ml)サイズが便利です。複数の蔵元の小瓶を組み合わせた「飲み比べセット」は、岐阜の日本酒の多様性を伝えるお土産として人気があります。
岐阜の日本酒の未来
若手蔵人の挑戦と新しい酒造り
岐阜県の酒蔵では、若手蔵人(くらびと)による新しい挑戦が活発に行われています。伝統的な技法を受け継ぎながらも、現代の味覚に合った酒造りを模索する動きが広がっているのです。例えば、従来は使われなかった新しい酵母の採用や、低アルコールで飲みやすい酒の開発、ワインのような酸味を持たせた新しいスタイルの日本酒の製造など、多様な取り組みが行われています。特に射美の杉原酒造のように、独自の酒米を開発して唯一無二の味わいを追求する蔵元の存在は、岐阜の日本酒が単なる伝統の継承にとどまらず、革新の精神を持っていることを示しています。
海外市場への展開と国際的な評価
岐阜の日本酒は、海外市場への展開も着実に進んでいます。和食の世界的な人気の高まりとともに、日本酒への関心も世界中で急速に拡大しており、岐阜の蔵元も輸出に力を入れる動きが広がっています。国際的な酒類コンペティションでは、岐阜の蔵元が金賞や最高賞を受賞するケースも増えており、世界の酒類市場で岐阜の日本酒の品質が認められつつあります。飛騨高山は外国人観光客にも人気の高い観光地であり、高山を訪れた外国人が地元の酒を味わい、自国に帰ってからも岐阜の日本酒を求めるという好循環が生まれています。
地域との共生と持続可能な酒造り
岐阜の酒蔵が直面している課題のひとつが、原料調達の持続可能性です。酒米の栽培農家の高齢化や後継者不足は、美味しい日本酒の基盤を脅かす問題となっています。一部の蔵元は、この課題に対して自社で酒米の栽培に乗り出したり、契約農家との連携を強化したりといった取り組みを行っています。また、酒造りの過程で生じる酒粕(さけかす)の有効活用も注目されており、酒粕を使った食品開発や化粧品原料への転用なども行われています。岐阜の美しい自然環境と清冽な水が酒造りの基盤である以上、環境保全への取り組みも欠かせません。水源となる山林の保全活動に参加する蔵元も増えています。
日本酒文化の継承と発信
岐阜の日本酒文化を次世代に継承し、広く発信していくことも重要なテーマです。近年、日本酒離れが指摘されることもありますが、岐阜の蔵元は様々なイベントや体験プログラムを通じて、日本酒の魅力を伝える努力を続けています。日本酒の酒造りに携わる杜氏の技術は、長年の経験と感覚に基づく無形の文化財とも言えるものであり、この技術の継承は蔵元にとって最も重要な課題のひとつです。岐阜県の酒造組合や各蔵元は、日本酒教室やセミナーの開催、酒蔵の一般公開など、消費者と蔵元の距離を縮める取り組みを積極的に行っています。
まとめ
岐阜の日本酒の魅力を振り返る
岐阜県は、北アルプスの伏流水、独自の酒米「ひだほまれ」、飛山濃水の風土という三つの要素が揃った、日本でも有数の日本酒の産地です。40を超える蔵元がそれぞれの個性を発揮し、飛騨と美濃で異なる味わいの酒を醸し続けています。
📌 この記事のポイント
✓ 岐阜県には40以上の酒蔵が点在する全国有数の酒どころ
✓ 北アルプスの伏流水と県産酒米「ひだほまれ」が美味しさの基盤
✓ 飛騨は淡麗辛口、美濃はふくよかな旨味と、地域で味わいが異なる
✓ 蓬莱・三千盛・射美・久寿玉・小左衛門など個性的な銘柄が揃う
✓ 飛騨高山では7つの酒蔵を巡る酒蔵めぐりが人気
✓ 射美は年間約2,000本の超少量生産で「幻の酒」と称される
✓ 飛騨の郷土料理との相性を考えた酒造りも岐阜の特徴
岐阜の日本酒は、「飛山濃水」の豊かな自然環境と、時代の変化に対応しながら進化を続ける蔵元の情熱によって支えられています。一杯の酒の中に、北アルプスの清冽な水と岐阜の風土の物語が凝縮されているのです。岐阜を訪れた際には、ぜひ地元の蔵元が醸す一杯を味わい、岐阜の日本酒文化の奥深さに触れてみてください。

コメント