岐阜県関市にある老舗うなぎ屋「辻屋」をご存じでしょうか。幕末の慶応年間に創業し、約160年の歴史を持つ辻屋は、刃物のまち関市で刀鍛冶たちに愛されてきたうなぎの名店です。なぜ関市にうなぎの名店が生まれたのか、なぜ辻屋のうなぎは特別なのか、そしてミシュランガイドにも掲載された実力の秘密とは何か。この記事では、辻屋の鰻にまつわるさまざまな「なぜ?」を徹底的に解説します。
📝 この記事でわかること
- 辻屋が幕末に創業した経緯と160年の歴史
- 関市の刀鍛冶とうなぎ文化の深い関係
- 辻屋のうなぎの特徴と秘伝のタレの秘密
- 岐阜県がうなぎの名所として知られる理由
辻屋とは?関市を代表する老舗うなぎ屋の全貌
辻屋の基本情報と創業の歴史
辻屋は、岐阜県関市に店を構える老舗のうなぎ屋です。創業は幕末の慶応年間(1865年頃)とされ、約160年の歴史を持っています。初代当主は元々川釣りを趣味としており、釣った魚を美味しく食べることに凝っていたと伝えられています。その趣味が高じて、川魚特有の旨味を多くの人にも味わってもらいたいという思いから食事処を始めたのが、辻屋創業の由来です。以来、代々受け継がれてきた秘伝のタレと炭火焼きの技術で、地元の人々はもちろん遠方からの来訪者にも愛され続けてきました。関市の中心部に位置し、せきてらす(関市の観光拠点施設)の近くにあるため、観光客にも訪れやすい立地となっています。
ミシュランガイド掲載の実力と評価
辻屋は、2019年にミシュランガイド愛知・岐阜・三重特別版に掲載され、ビブグルマンの評価を受けました。ビブグルマンとは、ミシュランガイドにおいてコストパフォーマンスに優れた良質な料理を提供する店に与えられる評価です。約160年の伝統を守り続けてきた味が、世界的なガイドブックからも認められたことは、辻屋の実力を示す大きな証となりました。ミシュラン掲載以降は全国的な知名度がさらに高まり、週末や祝日には行列ができることも珍しくありません。しかし、地元の常連客にとっては「昔からある馴染みのうなぎ屋」であり、気取らない雰囲気の中で本格的なうなぎを味わえることが辻屋の大きな魅力です。
辻屋の名物うな丼の特徴
辻屋の看板メニューは、なんといっても「うな丼」です。肉厚のうなぎを炭火でじっくりと焼き上げ、創業以来継ぎ足し続けてきた秘伝のタレをたっぷりと絡めた逸品です。外はパリッと香ばしく、中はふんわりとした食感が特徴で、口に入れた瞬間にうなぎの旨味が広がります。辻屋のうな丼のもうひとつの特徴は、ご飯の量です。丼に350グラムから400グラムものご飯がこんもりと盛られており、その上に大きなうなぎがどっしりと乗っています。タレがしっかりと染み込んだご飯との相性は抜群で、最後の一口まで飽きることなく楽しめます。この豪快な盛り付けは、かつて重労働を担った刀鍛冶たちを満足させてきた名残とも言えるでしょう。
秘伝のタレと炭火焼きへのこだわり
辻屋の味を支える要素のひとつが、創業以来継ぎ足し続けてきた秘伝のタレです。うなぎのタレは、醤油、みりん、砂糖などをベースに、うなぎの骨や頭から取った出汁を加えて作られるのが一般的ですが、その配合や火加減は店ごとに異なり、門外不出の秘伝とされています。辻屋のタレは約160年にわたって継ぎ足されてきたもので、長い年月をかけて旨味が凝縮された深い味わいが特徴です。また、焼き方にもこだわりがあり、ガスではなく炭火を使用しています。炭火の遠赤外線効果により、うなぎの内部にまでしっかりと火が通りつつ、表面には香ばしい焼き目がつきます。この焼き方が、辻屋ならではの食感を生み出しているのです。
うなぎ以外のメニューと川魚料理
辻屋ではうなぎだけでなく、鯉の刺身をはじめとする川魚料理も提供されています。創業者が川釣りの趣味から始めた食事処だけに、川魚全般への造詣が深く、うなぎ以外にも地元の川の恵みを活かした料理が楽しめます。鯉の刺身は、薄く切られた身が美しく盛り付けられ、酢味噌などと合わせて味わう一品です。鯉は淡水魚特有の臭みが気になるという方もいますが、辻屋では新鮮な鯉を使い、下処理を丁寧に行うことで臭みを感じさせない仕上がりとなっています。うなぎの定食にも小鉢や汁物がつき、季節の食材を取り入れた副菜が食事全体の満足度を高めています。川魚文化の奥深さを感じられるのが辻屋の魅力です。
辻屋の屋号にある「辻」とは、道が交差する場所を意味します。関市は古くから街道が交わる交通の要衝であり、人々が行き交う場所に食事処を構えたことが屋号の由来とされています。
なぜ関市にうなぎの名店が生まれたのか
関市の刀鍛冶とうなぎの深い関係
関市は「刃物のまち」として全国的に有名ですが、その刃物文化とうなぎには深い関係があります。関市における刀鍛冶の歴史は鎌倉時代に遡り、「関の孫六」に代表される名刀が数多く生み出されてきました。刀を打つ作業は、高温の炉の前で鉄を何度も叩き続ける重労働です。大量の汗をかき、体力を消耗する刀鍛冶たちにとって、栄養価の高いうなぎは最高のスタミナ食でした。うなぎにはビタミンA、ビタミンB群、タンパク質、脂質が豊富に含まれており、疲労回復に優れた食材です。辻屋が慶応年間に創業した背景にも、関市の刀鍛冶たちの食の需要があったと考えられています。刃物と鰻、関市の二大名物は歴史的に密接につながっているのです。
長良川水系がもたらした豊かなうなぎ文化
関市を含む岐阜県中部は、長良川の流域に位置しています。長良川は日本三大清流のひとつに数えられる水質の良い川であり、古くからうなぎをはじめとする川魚が豊富に生息していました。長良川に加えて、木曽川と揖斐川を合わせた「木曽三川」が岐阜県を貫いており、これらの清流がうなぎの生育に適した環境を作り出しています。かつては川で天然うなぎが多く獲れ、地元の人々にとってうなぎは身近な食材でした。こうした豊かな水資源がうなぎ文化の基盤を形成し、辻屋のような専門店が生まれる土壌を作ったのです。清流の恵みが、岐阜県のうなぎ文化を支えてきたと言えるでしょう。
鵜飼文化とうなぎの意外なつながり
岐阜県のうなぎ文化を語る上で欠かせないのが、鵜飼(うかい)との関係です。長良川の鵜飼は1300年以上の歴史を持つ伝統漁法で、鵜匠が鵜を操って川魚を捕らえます。鵜飼の漁師である鵜匠たちは、過酷な夜間の漁を行うためのスタミナ源として、昔からうなぎを食していたとされています。また、うなぎの名前の由来に関する面白い説として、鵜が飲み込むのに苦労する(鵜が難儀する)魚であることから「うなぎ」と呼ばれるようになったという話もあります。真偽はともかく、鵜飼とうなぎが岐阜の食文化の中で密接に結びついていることは確かです。長良川の鵜飼文化がうなぎへの親しみを深め、専門店の発展を後押ししてきたと言えるでしょう。
窯業地帯のスタミナ食としてのうなぎ
岐阜県には関市の刀鍛冶以外にも、うなぎとの縁が深い産業があります。それが窯業(ようぎょう)です。多治見市や土岐市を中心とする東濃地方は、美濃焼の産地として知られ、高温の窯で陶磁器を焼く作業が古くから行われてきました。窯の前で長時間にわたって作業を行う窯元の職人たちにとっても、うなぎは貴重なスタミナ食でした。岐阜県のうなぎ文化は、刀鍛冶、鵜匠、窯業職人という、いずれも火と向き合う職業の人々によって支えられてきたという共通点があります。暑い環境で重労働を行う職人たちがうなぎを求めたことが、岐阜県各地にうなぎの名店が点在する理由のひとつなのです。
📜 歴史メモ
関市の刀鍛冶の歴史は鎌倉時代の元応年間(1319年頃)に、九州の刀匠・元重が関に移り住んだことに始まるとされています。最盛期には300人以上の刀鍛冶が関に集まり、その職人たちの食を支えたのがうなぎ屋でした。辻屋はその伝統の中で最も長い歴史を持つ店のひとつです。
辻屋のうなぎはなぜ美味しいのか|味の秘密に迫る
160年継ぎ足しのタレが生む深い味わい
辻屋の味の核心ともいえるのが、約160年にわたって継ぎ足されてきた秘伝のタレです。うなぎのタレは、使い続けることで焼いたうなぎの脂や旨味成分が溶け込み、年月とともに複雑で奥深い味わいに成長していきます。新しいタレを作って足しながらも、古いタレの成分が核として残り続けることで、長い歴史が凝縮された唯一無二の味が保たれるのです。辻屋のタレは、甘すぎず辛すぎず、うなぎの旨味を引き立てる絶妙なバランスが特徴とされています。タレの管理は店にとって最も重要な仕事のひとつであり、温度管理や継ぎ足しのタイミング、配合の微調整など、日々細心の注意が払われています。この一子相伝のタレこそが、辻屋の味を支える最大の財産です。
炭火焼きの技術と美味しさの科学
辻屋では、うなぎを焼く際に炭火を使用しています。現在、多くのうなぎ店ではガスコンロを使用することが増えていますが、辻屋は創業以来の炭火焼きにこだわり続けています。炭火の最大の特徴は、遠赤外線を多く放射することです。遠赤外線はうなぎの内部にまでじっくりと熱を伝えるため、外側だけが焦げることなく、均一に火が通ります。その結果、表面はパリッと香ばしく、内部はふんわりとした理想的な食感が実現されるのです。また、炭火特有の香りがうなぎに移ることで、ガス焼きでは得られない風味が生まれます。炭の火加減の調整は経験と勘が必要な熟練の技であり、辻屋の職人たちが代々受け継いできた大切な技術です。
地焼きと蒸し焼きの違い|辻屋の焼き方
日本のうなぎの焼き方は、大きく「地焼き(じやき)」と「蒸し焼き」の二つに分けられます。関東では白焼きにした後に蒸してから再度タレをつけて焼く「蒸し焼き」が主流で、ふわっとした柔らかい食感が特徴です。一方、関西や東海地方では蒸す工程を入れずに直接焼き上げる「地焼き」が多く、外側がパリッとした力強い食感が楽しめます。辻屋は東海地方の地焼きスタイルを基本としており、炭火で表面をしっかりと焼き上げることで、皮目のパリッとした食感と身のふんわり感の対比を際立たせています。蒸し焼きと比べてうなぎ本来の脂の旨味がダイレクトに感じられるのが地焼きの魅力であり、辻屋の豪快なうな丼には最適な焼き方と言えるでしょう。
素材選びと仕入れへのこだわり
辻屋の美味しさを支えるもうひとつの要素が、素材選びです。うなぎの品質は産地や育て方によって大きく異なり、脂の乗り方、身の厚さ、臭みの有無などさまざまな要素が味に影響します。辻屋では、肉厚で脂ののったうなぎを厳選して仕入れており、一匹一匹の状態を確認しながら品質管理を行っています。うなぎは生きた状態で仕入れ、注文を受けてからさばくのが理想とされていますが、辻屋でもこの鮮度へのこだわりが貫かれています。新鮮なうなぎは身にハリがあり、焼いた際にふんわりとした食感が出やすいとされています。タレと炭火の技術に加え、素材そのものの品質にこだわることが、160年にわたって支持され続ける味の秘密です。
| 比較項目 | 地焼き(東海・関西) | 蒸し焼き(関東) |
|---|---|---|
| 工程 | 直接焼き上げる | 白焼き→蒸し→本焼き |
| 食感 | 外パリッ・中ふんわり | 全体的にふわとろ |
| 脂の感じ方 | ダイレクトに感じる | 蒸すことで適度に落ちる |
| 開き方 | 腹開きが多い | 背開きが多い |
うなぎの栄養と健康効果|なぜスタミナ食と言われるのか
うなぎに含まれる豊富なビタミン群
うなぎが「スタミナ食」として古くから重宝されてきた理由は、その圧倒的な栄養価の高さにあります。特に注目すべきは、ビタミンAの含有量です。うなぎ100グラムあたりのビタミンA(レチノール)含有量は約2,400マイクログラムとされ、これは成人の一日の推奨摂取量を大きく上回る量です。ビタミンAは目の健康維持や皮膚の保護、免疫機能の向上に欠かせない栄養素です。また、ビタミンB1は糖質をエネルギーに変換する際に必要であり、疲労回復に効果があるとされています。ビタミンB2は代謝を促進し、ビタミンEは抗酸化作用を持つことで知られています。これらのビタミンが豊富に含まれるうなぎは、まさに天然の栄養ドリンクとも呼べる食材なのです。
土用の丑の日にうなぎを食べる理由
日本では土用の丑の日にうなぎを食べる習慣が広く定着しています。この風習の起源については諸説ありますが、最も有名なのは平賀源内にまつわるエピソードです。江戸時代、夏場に売上が落ちることに悩んだうなぎ屋が平賀源内に相談したところ、「本日丑の日」と書いた張り紙を店先に出すよう助言したとされています。丑の日に「う」のつく食べ物を食べると夏バテしないという言い伝えがあり、うなぎはまさにぴったりの食材でした。科学的にも、うなぎの豊富なビタミンB群は夏場の疲労回復に効果が期待できるとされています。辻屋でも土用の丑の日は一年で最も多くの客が訪れる日であり、早朝から大量のうなぎが焼かれます。
DHA・EPAと良質な脂の効果
うなぎの脂には、DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)という不飽和脂肪酸が含まれています。これらは青魚に多く含まれることで知られていますが、うなぎにも相当量が含まれています。DHAは脳の機能維持に関わる栄養素として注目されており、EPAは血液の流れを良くする効果があるとされています。うなぎの脂はこってりとした印象がありますが、実は良質な不飽和脂肪酸が多く、健康面でもメリットがある食材なのです。辻屋のうな丼は肉厚のうなぎをたっぷりと使用しているため、こうした栄養素を効率よく摂取できます。美味しく食べながら栄養も摂れるという、まさに一石二鳥の食事と言えるでしょう。
うなぎと日本人の食文化の歴史
日本人がうなぎを食べ始めた歴史は非常に古く、縄文時代の遺跡からもうなぎの骨が発見されています。奈良時代の歌人大伴家持は、『万葉集』の中でうなぎを食べて精をつけることを詠んだ歌を残しており、古くからうなぎがスタミナ食として認識されていたことがわかります。江戸時代になると、濃口醤油の普及とともにうなぎの蒲焼文化が花開き、庶民の間にも広く浸透していきました。辻屋が創業した幕末の慶応年間は、まさに蒲焼文化が成熟した時代であり、関市の刀鍛冶たちの需要も相まって、うなぎ屋の開業に最適なタイミングだったと言えます。日本の食文化の中で、うなぎは特別な位置を占め続けてきたのです。
💡 ポイント
うなぎ100グラムあたりのカロリーは約255キロカロリー。タンパク質は約17グラム、脂質は約19グラムを含みます。ビタミンA、B1、B2、D、Eが豊富で、ミネラルではカルシウム、鉄分、亜鉛なども含まれる、非常にバランスの良い食材です。
関市の刃物文化とうなぎの共存関係
刀鍛冶から包丁産業への転換とうなぎ屋の変遷
関市の刃物産業は、明治時代に入ると大きな転換期を迎えました。明治9年(1876年)の廃刀令により、武士が刀を帯びることが禁止されたため、刀鍛冶たちは新たな活路を模索することになります。多くの刀匠が包丁やナイフ、はさみなどの日用刃物の製造に転じ、関市は「刃物のまち」として再出発しました。この産業転換の中でも、うなぎ屋の需要は衰えませんでした。刃物製造も高温の炉を使う重労働であり、職人たちのスタミナ源としてうなぎは引き続き重宝されたのです。辻屋は、刀鍛冶の時代から包丁産業の時代まで、関市の職人文化とともに歩んできた食の歴史の証人とも言える存在です。
刃物まつりとうなぎの街としての関市
関市では毎年10月に「関市刃物まつり」が開催され、全国から多くの来場者が訪れます。刃物の展示即売や古式日本刀鍛錬の実演などが行われるこの祭りは、関市の一大イベントです。刃物まつりの期間中は辻屋をはじめとする市内のうなぎ店も大いに賑わい、刃物とうなぎを両方楽しむことが関市観光の定番コースとなっています。近年では「せきてらす」を中心に、関市の刃物文化とグルメを組み合わせた観光振興が推進されており、うなぎは刃物に次ぐ関市の看板として位置づけられています。刃物の切れ味で知られるまちで、うなぎの味わいも極められてきたという物語は、関市ならではの魅力と言えるでしょう。
関市のうなぎ店が密集する理由
関市は人口に対してうなぎ屋の数が多いまちとして知られています。辻屋以外にも複数の老舗うなぎ店があり、それぞれが独自の味とこだわりを持って営業しています。この「うなぎ店の密集」の背景には、前述のとおり刀鍛冶の職人文化と、長良川水系の豊かな水産資源という二つの要因があります。さらに、関市の人々の間にうなぎを食べる習慣が根強く残っていることも大きな理由です。祝い事や季節の節目にうなぎを食べるという風習は、他の地域以上に色濃く残っており、地元需要が安定してうなぎ店を支えてきました。辻屋はその中でも最古参の一店であり、関市のうなぎ文化を牽引してきた存在です。
辻屋と関市の観光振興
近年、関市は「刃物のまち」としてのブランドに加え、「うなぎのまち」としての魅力も積極的にPRしています。その中で辻屋は、ミシュランガイド掲載という実績を持つ関市グルメの代表格として位置づけられています。2020年にオープンした刃物の総合拠点「せきてらす」の近くに辻屋があることから、刃物文化の見学とうなぎ料理の食事をセットで楽しむ観光プランが定着しつつあります。関市観光協会のウェブサイトや岐阜県の観光ガイドにも辻屋は掲載されており、市を代表する飲食店として公的にも認知されています。刃物とうなぎ、関市が誇る二つの文化を同時に体験できることが、この街の観光の強みとなっています。
岐阜県のうなぎ文化と全国的な位置づけ
岐阜県が「うなぎ県」と呼ばれる所以
日本でうなぎが有名な地域というと、愛知県(名古屋)の「ひつまぶし」や静岡県(浜松)の「浜名湖うなぎ」を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、岐阜県も実はうなぎの名所として知られています。岐阜県がうなぎと縁が深い理由は、木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)という日本有数の大河川が県内を流れていることにあります。かつてはこれらの川で天然うなぎが豊富に獲れ、川沿いの町々にうなぎ屋が軒を連ねていました。また、鵜飼、刀鍛冶、窯業といった岐阜県特有の産業や文化がうなぎの需要を高めてきたことも、他県にはない特徴です。岐阜県は、うなぎを食べる文化的背景が多層的に存在する稀有な県と言えるのです。
東海地方のうなぎ文化と地域差
東海地方は全国的にもうなぎ消費量が多い地域として知られており、愛知・岐阜・三重を中心にうなぎ文化が根付いています。しかし、同じ東海地方でも地域によって食べ方や焼き方に違いがあります。名古屋の「ひつまぶし」は、うなぎを細かく刻んでご飯の上にまぶし、そのまま・薬味で・出汁をかけてと三通りの食べ方を楽しむスタイルです。一方、岐阜県の関市や岐阜市では、うな丼やうな重としてシンプルにうなぎの味わいを楽しむスタイルが主流です。辻屋のうな丼は、大きなうなぎをこんもり盛ったご飯の上にどっしりと乗せた豪快なスタイルで、職人文化が育んだ力強い食文化を反映しています。地域ごとの食べ方の違いを比較してみるのも、うなぎ文化の楽しみ方のひとつです。
天然うなぎと養殖うなぎの現在
かつて長良川をはじめとする岐阜県の河川では天然うなぎが豊富に獲れていましたが、現在では天然うなぎの漁獲量は激減しています。日本全体で見ても、市場に出回るうなぎの99パーセント以上は養殖うなぎとされており、天然うなぎは極めて希少な存在となっています。うなぎの養殖は、シラスウナギ(うなぎの稚魚)を捕獲して育てる方法で行われていますが、シラスウナギの漁獲量も年々減少しており、うなぎ全体の資源保護が課題となっています。辻屋をはじめとするうなぎの名店では、限られた資源の中で最高品質のうなぎを提供するため、信頼できる養殖業者との関係を構築し、安定した仕入れルートを確保しています。
うなぎの未来と持続可能な食文化
ニホンウナギは2014年にIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに「絶滅危惧IB類」として掲載されており、その資源管理は国際的にも注目されています。日本では、シラスウナギの漁獲量の規制や養殖技術の研究が進められており、完全養殖(卵から成魚までを人工的に育てる技術)の実用化に向けた取り組みも行われています。辻屋のような老舗うなぎ店にとっても、うなぎの持続可能性は重要な課題です。160年の歴史を持つ味を未来に引き継ぐためには、うなぎという食材そのものが持続可能であることが不可欠です。伝統を守りながらも、資源保護の意識を持ち続けることが、これからのうなぎ文化に求められているのです。
辻屋を訪れる際に知っておきたいこと
関市へのアクセスと辻屋の立地
辻屋は関市の中心部に位置しており、公共交通機関でも車でもアクセスしやすい場所にあります。鉄道を利用する場合は、長良川鉄道の「関駅」が最寄り駅となります。車の場合は東海北陸自動車道の「関インターチェンジ」から約10分ほどの距離です。名古屋方面からは車で約1時間、岐阜市内からは約30分で到着します。辻屋の近くには「せきてらす」や関善光寺などの観光スポットがあり、食事と観光を組み合わせたプランが立てやすい立地です。駐車場は店舗の周辺にありますが、混雑時には満車になることもあるため、周辺のコインパーキングを利用する場合も想定しておくと安心です。
人気店ゆえの混雑と待ち時間の目安
辻屋はミシュランガイド掲載の影響もあり、特に週末や祝日には多くの来客で賑わいます。ランチタイムの11時半から13時頃が最も混雑する時間帯であり、30分以上の待ち時間が生じることも珍しくありません。特に土用の丑の日や大型連休の時期は、開店前から行列ができることもあります。平日であれば比較的スムーズに入店できることが多いですが、それでも12時前後は混み合うことがあるため、早めの時間帯に訪れるのがおすすめです。うなぎは注文を受けてから焼き始めるため、席に着いてから料理が提供されるまでにも時間がかかります。待ち時間も含めてゆったりと楽しむつもりで訪れるのが、辻屋を満喫するコツと言えるでしょう。
うな丼以外のおすすめメニュー
辻屋ではうな丼が圧倒的な人気を誇りますが、それ以外にも魅力的なメニューがあります。「うな重」は、重箱に盛り付けられたうなぎとご飯を楽しむスタイルで、うな丼とはまた異なる趣があります。「白焼き」は、タレをつけずに焼いたうなぎをわさびと醤油で味わうもので、うなぎの素材そのものの旨味を堪能できる通好みの一品です。前述の鯉の刺身は、うなぎとの組み合わせで注文する方も多く、川魚の味の違いを楽しめます。季節によっては限定メニューが登場することもあり、何度訪れても新しい発見があるのが辻屋の魅力です。初めての方はまずうな丼を、リピーターの方は白焼きや鯉料理にも挑戦してみてはいかがでしょうか。
関市観光と合わせた楽しみ方
辻屋での食事を、関市観光と組み合わせることで一日を充実して過ごすことができます。まず訪れたいのが、刃物の総合拠点「せきてらす」です。関の刃物の歴史を学び、包丁やナイフの買い物を楽しめます。近くにある「関鍛冶伝承館」では、古式日本刀鍛錬の実演を見学できることもあり、刀鍛冶の迫力を体感できます。食事は辻屋でうなぎをいただき、午後には関善光寺や長良川沿いの散策を楽しむというプランが人気です。少し足を延ばせば、モネの池(板取方面)や道の駅平成(武儀方面)など、関市の豊かな自然スポットにもアクセスできます。刃物、うなぎ、自然の三拍子がそろった関市を、一日かけてじっくりと満喫してみてください。
まとめ
辻屋の鰻の魅力を振り返る
辻屋は、幕末の創業以来約160年にわたり、関市の刀鍛冶文化とともに歩んできた老舗うなぎ屋です。秘伝のタレ、炭火焼き、豪快なうな丼のスタイルには、職人のまちに根ざした食文化の歴史が凝縮されています。
📌 この記事のポイント
✓ 辻屋は慶応年間(1865年頃)創業の老舗で、約160年の歴史を持つ関市の名店である
✓ 関市の刀鍛冶たちがスタミナ源としてうなぎを食べていたことが、うなぎ文化の基盤となった
✓ 創業以来継ぎ足し続ける秘伝のタレと炭火焼きの技術が、辻屋の味の核心である
✓ 2019年にミシュランガイドのビブグルマンに選出され、全国的な知名度を獲得した
✓ 岐阜県のうなぎ文化は、鵜飼・刀鍛冶・窯業という「火と向き合う職人文化」に支えられてきた
✓ 東海地方の「地焼き」スタイルで、外パリッ・中ふんわりの食感が楽しめる
✓ せきてらすや関善光寺と組み合わせた関市観光プランの一環として楽しめる
辻屋の鰻は、単なるグルメではなく、関市の歴史と文化が生み出した「食の遺産」とも呼べる存在です。刀鍛冶たちが汗を流しながら食べたうなぎの味を、160年の時を超えて現代に伝えてくれる辻屋。岐阜県を訪れる機会があれば、ぜひ関市に足を運び、炭火で焼き上げられた秘伝のうなぎを味わってみてはいかがでしょうか。

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